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【論文掲載】舌で”おいしい”塩味を感じる仕組みが明らかに~味蕾(みらい)において塩味を受容する細胞とその情報変換の分子メカニズムを解明~

京都府立医科大学 大学院医学研究科 細胞生理学の樽野 陽幸 教授らは、マウスを用いた実験により、舌の味蕾(みらい) (用語1)と呼ばれる味覚(用語2)センサー器官の中の塩味を感じる細胞の同定に成功し、さらにこれらの細胞が塩味(用語3)の情報を変換して脳へと伝える仕組みを分子レベルで解明しました。
我々は食塩(塩化ナトリウム)をその“おいしさ”のせいで摂り過ぎてしまいます。塩の過剰摂取は様々な心血管疾患の引き金になる高血圧の最大のリスク因子であり、世界保健機関(WHO)をはじめ全世界で減塩が推奨されています。しかし、これまでは塩味を感じる仕組みが理解されていなかったために、経験的な減塩戦略に頼らざるを得ず、その効果は限定的でした。
本研究成果により、食塩のおいしさの背景にある仕組みが細胞および分子のレベルで解明されました。今後、科学的な知見に基づいた減塩食品の開発研究が加速すると期待できます。
本研究は、2020年3月30日付け(米国東部時間)で米国科学雑誌『Neuron』に掲載されます。
 

本研究成果のポイント

 ・飽食の現代、塩分を摂り過ぎる傾向にあるが、食塩をおいしく感じる仕組みは謎だった。
・マウスを用いた実験で、舌にある塩味を感じる細胞(塩味受容細胞)を同定し、さらに、この細胞で塩味の情報が変換され、脳へと伝えられる仕組みを分子レベルで解明した。
・将来、科学的知見に基づく効果的な減塩食品開発の加速が期待される。
 
【用語説明】
(1)味蕾(みらい):舌にある味覚センサー器官で、約100個の細長い細胞(味細胞)が集まってできています。球根が土の中から芽を出すように、味細胞は舌の表面に細長い突起をのぞかせており、先端部分に味覚センサー分子があります。5基本味はそれぞれ固有の味覚センサー分子をもつ別々の味細胞で受容されます。味細胞は食物に含まれる物質で活性化されると興奮し、神経伝達物質を味神経へと放出することで味覚情報を脳へと伝達します。
(2)味覚:味蕾を構成する味細胞が食物に含まれる物質で刺激されて生じる感覚。味の質(味質)には少なくとも5種類(甘味・苦味・うま味・酸味・塩味)が知られ、基本味と呼ばれます。例えば糖質を知らせる甘味はおいしく、毒素を知らせる苦味はまずく感じるように、栄養素の摂取や危険物の忌避を担う味覚は生存に欠かせません。さらに味覚は食の喜びを介して我々の生活の質を高めます。一方、飽食の現代は“おいしさ”に起因する栄養素の摂取過剰による肥満や高血圧などの生活習慣病が社会問題になっています。
(3)塩味:主に食塩によって生じる味覚。同じ塩でもスープがおいしく海水がまずいように、厳密には塩味はおいしさの受容メカニズムとまずさの受容メカニズムの2つで構成されますが、簡易化のため本研究では “おいしい”塩味受容メカニズムから生じる味覚を塩味と呼んでいます。
 
 

論文基礎情報

【雑誌名】米国科学雑誌 Neuron
掲載日時:米国東部標準時2020年3月30日11時
日本時間2020年3月31日0時 (オンライン速報版)
 参照URL:https://doi.org/10.1016/j.neuron.2020.03.006
【論文名】
All-electrical Ca2+-independent signal transduction mediates attractive sodium taste in taste buds
(和訳:味蕾において総電気仕掛けでCa2+非依存性のシグナル伝達が“おいしい”塩味をつくり出す)
【著者名】
野村憲吾:京都府立医科大学 大学院医学研究科 細胞生理学
中西光歩:京都府立医科大学 大学院医学研究科 細胞生理学
石館文善:京都大学 iCeMSメゾバイオ1分子イメジングセンター
岩田和実:京都府立医科大学 大学院医学研究科 病態分子薬理学
樽野陽幸:京都府立医科大学 大学院医学研究科 細胞生理学・JSTさきがけ
【責任著者】
樽野陽幸(京都府立医科大学)
 

研究プロジェクトについて

本研究は、以下の研究費の支援を受けて行われました。
 科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ (JPMJPR1886)(樽野陽幸)
 日本学術振興会 科研費 基盤(B)19H03819(樽野陽幸)
 日本学術振興会 科研費 挑戦的研究(萌芽)16K15181(樽野陽幸)
 ソルト・サイエンス研究助成 (18C2/19C2) (樽野陽幸)
 京都府公立大学法人若手研究者・地域未来づくり支援事業(野村憲吾)
 
プレスリリース資料はこちら

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