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【論文掲載】入所前後の適切な投薬内容の評価は 高齢者介護施設での薬物療法の安全性を向上させる ~高齢者介護施設における薬剤性有害事象および薬剤関連エラーの臨床疫学研究~

本研究成果のポイント

○高齢化社会に伴い高齢者介護施設(以下、介護施設)の入所者は年々増加し、また入所者の多くが慢性疾患の治療のために複数の薬剤を服用しているが、介護施設での薬物療法の安全性に関する報告は世界的に乏しく、特に欧米諸国以外からはほとんどない状況であった。
○4つの介護施設の介護記録を元に、薬剤性有害事象(薬剤の使用に伴う健康被害。以下、ADE)および薬剤関連エラー(薬剤の使用に伴う予期せぬ逸脱。以下、ME)について調査を行った結果、ADEおよびMEは100入所月あたり約36件および18件生じており、ADEの3分の1はMEを伴っており、MEの約7割が投与後の観察段階で生じていた。また有意差はなかったが、薬剤の減量や中止に伴うADEは、それ以外のADEと比較して重症度が高い傾向にあった(8.3% vs 3.5%,p=0.067)。
○本調査は確立された方法論により介護記録を網羅的に調べることで、世界で最も高齢化が進む我が国の介護施設入所者のADEおよびMEの頻度を明らかにし、安全な薬物療法を行う上で、入所前後の投薬内容の評価が重要であることを示した点で意義がある。

研究概要

 独立行政法人国立病院機構 舞鶴医療センターの臨床研究部長で、本学大学院医学研究科精神機能病態学 客員講師の綾仁信貴らの研究グループは、高齢者介護施設(以下、介護施設)の入所者における薬剤性有害事象(Adverse Drug Event:薬剤の使用に伴う健康被害。以下、ADE)および薬剤関連エラー(Medication Error:薬剤の使用に伴う予期せぬ逸脱。以下、ME)の発生頻度についての臨床疫学的調査を行い、本研究に関する論文が英国医学雑誌「BMJ Quality & Safety」(オンライン版:2022年4月21日)に掲載されましたのでお知らせします。本研究は4つの高齢者介護施設の協力のもと、本学大学院医学研究科精神機能病態学 成本迅教授、桑原明子助教、大矢希病院助教、北岡力大学院生、兵庫医科大学臨床疫学 森本剛教授、作間未織講師と共同で行ったものです。 本研究はJADE-Study(日本薬剤性有害事象研究)の一環として、2016年8月からの1年間に4つの介護施設(介護老人保健施設2施設、特別養護老人ホーム2施設)に入所したショートステイ以外の全入所者を対象に、介護記録を前向きに調査する方法で行われました。調査の結果、ADEおよびMEは100人月(※1人が1か月入所すると1人月)あたり36件および18件生じており、ADEの3分の1はMEを伴っており、またMEの約7割が投与後の観察段階で生じていたことが明らかにされました。また統計的な有意差はないものの、薬剤の減量や中止に伴うADEは、他のADEと比較して重症度の高いADE(致命的または命に係るもの)の比率が高いという傾向が示されました(8.5% vs 3.5%,p=0.068)。
 海外で行われた過去の研究結果と比較すると、本研究でのADEやMEの頻度は約2-20倍と高いものでしたが、調査対象者の特徴や原因薬剤の内訳は似通っており、本研究の調査手法が詳細な記録を元にした精緻なものであったことから、本研究の結果は介護施設におけるADEやMEの実態をより正確に明らかにしていると考えられました。多くのMEが薬剤投与後の観察段階で発生していたことや、薬剤の減量や中止に伴うADEにおいてより重症のADEの比率が高かったことについてでは、施設入所後は通常一人の医師が入所者のほとんどの薬剤処方を担当していることも考慮すると、総合診療医や薬剤師などの介入により、施設入所前の投薬内容の適切な評価と調整に加え、入所後の薬剤投与による影響の適切な評価が行われることが、介護施設における薬物療法の安全性を高めるために重要であると考えられました。
 今後世界の多くの国で高齢化が進んでいく中、世界で最も高齢化が進んだ我が国の介護施設における薬物療法の疫学が明らかにされたことは、我が国のみならず高齢化の進む諸外国においても、介護施設における薬剤使用の安全性と質の向上に寄与すると期待されます。
 

論文情報

雑誌名 BMJ Quality & Safety 
発表媒体 オンライン速報版
雑誌の発行元国 英国
オンライン閲覧 可
 https://qualitysafety.bmj.com/content/early/2022/04/20/bmjqs-2021-014280
掲載日 2022年4月21日(木)(日本時間)
論文タイトル Epidemiology of adverse drug events and medication errors in four nursing homes in Japan: the Japan Adverse Drug Events (JADE) Study 
[日本語:日本の4つの高齢者介護施設における薬剤性有害事象および薬剤関連エラーの疫学調査]
 
代表著者・筆頭著者
 京都府立医科大学大学院 精神機能病態学

 独立行政法人国立病院機構 舞鶴医療センター 精神科 綾仁信貴
共同著者(所属・氏名)※論文掲載順
 兵庫医科大学臨床疫学 森本 剛  兵庫医科大学臨床疫学 作間未織
 京都府立医科大学 大学院医学研究科 精神機能病態学 大矢 希
 京都府立医科大学 大学院医学研究科 精神機能病態学 北岡 力
 京都府立医科大学 大学院医学研究科 精神機能病態学 桑原明子
 京都府立医科大学 大学院医学研究科 精神機能病態学 成本 迅
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