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【論文掲載】生体試料を凍らせて分子を高感度観察できるクライオ-ラマン顕微鏡を開発

本研究成果のポイント

○生体分子由来の微弱なラマン散乱光※1を高感度検出できるラマン顕微鏡※2を開発し、従来技術と比べて約8倍明るい細胞観察を達成。
〇これまでの生体試料のラマン観察では、ラマン散乱光の微弱さから、信号対雑音比※3、分解能、観察視野などが、試料の経時変化や光損傷により制限されてきた。
〇凍結中の細胞を無標識で分析することが可能となり、凍結細胞の状態や凍結条件の評価を行うことが可能になった。
〇試料内分子の空間分布や化学状態の高感度観察が要求される生物学、医学、薬学などの幅広い研究に役立ち、分光イメージング技術の進展にも貢献する成果が期待される。
 

研究概要

 大阪大学 大学院工学研究科 大学院生の水島健太さん(博士後期課程)、藤田克昌 教授、山中真仁 特任准教授(常勤)、同 先導的学際研究機構 熊本康昭 准教授らの研究グループは、同 免疫学フロンティア研究センターのNicholas Smith 准教授、京都府立医科大学の田中秀央 特任教授、理化学研究所環境資源科学研究センターの袖岡幹子 グループディレクターらと共に、生体試料を凍らせて分子を高感度観察できるラマン顕微鏡を開発することに成功しました。
 従来の生体試料のラマン観察における信号対雑音比は、ラマン散乱光の微弱さから、レーザー光の照射による試料のダメージや、観察中の試料の動きにより制限されてきました。また、生体試料の動きを固定するために一般的に用いられる方法の多くは、試料の化学的な状態を変化させてしまうという課題もありました。
 今回、本研究グループは、生体試料を急速に凍結し、試料を低温状態のままラマン観察することによりラマン観察の信号対雑音比を向上する、クライオ-ラマン顕微鏡を開発しました。この顕微鏡を用いると、試料中の分子の分布や化学状態を変性させることなく固定でき、また試料を低温下に置いて物理的に安定化させることで、レーザー光による試料のダメージを抑制し、高信号対雑音比、高分解能、広視野でのラマン観察を可能にします。
 本研究では、開発した技術を用いて、凍結固定された細胞を長時間観察することに成功し、観察信号の増大、信号対雑音比の向上、実効的な空間分解能とスペクトル分解能の向上を確認しました。また、従来のラマン観察法では観察時間が1時間程度に限られていましたが、約10時間以上の長時間観察も行える安定な顕微鏡システムが構築できたことで、高い信号対雑音比と広い視野での細胞観察が可能となりました。
本研究成果は、米国科学誌「Science Advances」に、12月12日(木)午前4時(日本時間)に公開されました。
 

論文情報

雑誌名 Science Advances
オンライン閲覧 可 https://doi.org/10.1126/sciadv.adn0110
掲載日 2024年12月12日(日本時間)
論文タイトル(英)
 Raman microscopy of cryofixed biological specimens for high-resolution and high-sensitivity chemical imaging
著者名:Kenta Mizushima, Yasuaki Kumamoto, Shoko Tamura, Masahito Yamanaka, Kentaro Mochizuki, Menglu Li, Syusuke Egoshi, Kosuke Dodo, Yoshinori Harada, Nicholas I. Smith, Mikiko Sodeoka, Hideo Tanaka, and Katsumasa Fujita
 

用語説明

※1 ラマン散乱光

分子に光が入射した際に発生する散乱光の一種で、そのエネルギーは入射光のエネルギーとは異なる。ラマン散乱光と入射光のエネルギーの差は光の波長の差と対応しており、分子の固有振動のエネルギーと一致する。
※2  ラマン顕微鏡
試料にレーザー光を入射し発生するラマン散乱光のスペクトルをマッピングすることにより、試料中の分子の空間分布を可視化できる顕微鏡技術。
※3  信号対雑音比
測定において検出される必要な信号と不要な雑音の比率。ラマン観察では、観察したい分子に由来するラマン散乱光が信号となり、その他の分子に由来するラマン散乱光や自家蛍光、および装置に由来するラマン散乱光や発光が雑音となる
 
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