図書館メールNews 第223号………………>>>>>2013.01.10 発行  あけましておめでとうございます。  本年最初の図書館メールNewsをお届けします。  今年もよろしくお願い申し上げます。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  目次 ……………………………………………………………………………………………… 【1】--- コラム第6弾! 第7回 「『レ・ミゼラブル』の思い出」                   / 神経生理学教室 八木田 和弘 先生 ……………………………………………………………………………………………… 【2】--- 【予告】「二十周年に捧ぐ、人生の20(ツレ)~我が座右の書~」展   / いよいよ1月22日から始まります! ……………………………………………………………………………………………… 【3】--- 貴重書全文アーカイブ、2冊追加しました! ……………………………………………………………………………………………… 【4】--- 『今日の臨床サポート』トライアル延長しています。 ……………………………………………………………………………………………… 【5】--- 15分講習会を実施します(PubMed・医中誌Web・インパクトファクター) ……………………………………………………………………………………………… ……………………………………………………………………………………………… [ Book Review ]・・・編集後記にかえて ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【1】 コラム第6弾! 第7回 「『レ・ミゼラブル』の思い出」                   / 神経生理学教室 八木田 和弘 先生 ………………………………………………………………………………………………   あけましておめでとうございます。   このたびは、図書館ニュースに何かエッセイをということで、ビクトル・ユー  ゴーの名作「レ・ミゼラブル」にまつわることを書かせていただこうと思います。  原作は、小学生の頃か、中学生の頃か、2−3度挑戦しましたが、ついぞ最初の数  ページ以降を読んだ記憶がありません。そこで、今日は、有名なロングラン・ミュ  ージカルと最近公開された映画の話です。「おまえ、『レ・ミゼ』っちゅう顔かぁ  ?」とか、いろいろご批判もあるかと思いますが、ご容赦のほどよろしくお願いい  たします。   1995年3月、私はニューヨークにいました。国家試験が終わり合格発表までの約  1ヶ月間、コロンビア大学の附属病院であるColumbia-Presbyterian Hospitalに臨  床実習に参加するためです。前年にYale大学で同様の臨床実習を体験し、そのとき  の経験をもとに1年間それなりに準備をした結果、かなり楽しく過ごすことができ  ていました。週末には同じチームの学生やレジデントとアッパー・イーストのおし  ゃれなカフェに食事にいったり、マンハッタン島の南端から北端までドライブした  りと、通常の観光ではできないプチ留学を満喫していました。   ある週末、一緒に行っていた府立医大の同級生の内藤慶くんと一緒に、「せっか  くニューヨークに来たのだから、それらしいことも。」ということで、ブロードウ  ェイでミュージカルを見ることにしました。そんなに詳しくなかった我々は、原作  の題名くらいは知っている「レ・ミゼラブル」を鑑賞することに決めました。本ミ  ュージカルは、ご存知の方も多いと思いますが、1985年にロンドンで初演され、  2010年に25周年を迎えた名作です。当時でも10年のロングランを記録していて、  人気が高く、なんとかチケットがとれた一番前の端の方の席に座りました。   ビクトル・ユーゴー原作の大作であること、主人公のジャン・バルジャンがたっ  た一つのパンを盗んだために19年間も牢獄にいたこと、この作品の評判を聞くた  めに作者が編集者に送った手紙が世界で最も短い手紙として知られていること、く  らいしか基礎知識が無く「まあ、ニューヨークやし、ブロードウェイやし、ミュー  ジカルくらいは見とかないとね。」という気持ちで開演を待っていました。   ところが、始まってすぐ、胸をドンッと突かれるようなショックを受け、このミ  ュージカルに引き込まれていったのです。もちろん、臨床実習のために1年間かな  り英語の訓練を積んで来たとは言え、半分も聞き取れず、台詞や歌詞の詳細はほと  んど理解できませんでした。しかし、言葉では表現できない深い感動をおぼえ、終  わったときには思わずスタンディング・オベーションで心から拍手を送っていまし  た。こんなことは初めてだったし、みんな礼儀としてやっているのだろうと思って  いましたが、無意識にそうさせる力がすばらしいミュージカルやコンサートにはあ  るということを、身をもって知りました。スーザン・ボイルで最近も有名になった  「夢やぶれて」や「On My Own」など印象深い歌が心にのこり続け、以後もずっと、  ふとそれらの曲を耳にするとニューヨークの風景やそこで出会った学生やレジデン  トのみんなを思い出します。   それから約18年、昨年12月21日から映画「レ・ミゼラブル」が公開されま  した。夏くらいから楽しみにしていて、この休みに妻と久しぶりに映画館を訪れま  した。映画館は満席で、あのときと同じ、最前列の少し端の方の席に座りました。  恥ずかしながら、この映画で物語の詳細な時代背景を初めて理解しました。これま  で、ずっと心に残っていた最も感動を覚えたミュージカルなのに、「ああ、それで  命がけで革命を起こそうとしていたのね。」といった具合でした。しかもさすがの  大作映画で、大スクリーンで見る19世紀初頭のパリの風景と、学生を中心とした  若者が自由を求めて軍隊と激突するシーンなどは、迫力満点で圧倒されました。加  えて、アン・ハサウウェイやヒュー・ジャックマンの真に迫る演技と心を揺さぶる  歌は、やはり思った以上にすばらしく鳥肌が立ちっぱなしでした。見終わった後、  「すごかったね。ミュージカルはもっと感動したんじゃない?」と妻が声をかけて  来て、我に返りました。ニューヨークで鑑賞したときのことを鮮明に思い出してい  た私は、ちょうどそのことを考えていました。「確かに、うまく言えないけど、何  かちょっと違う種類の心に引っかかる感じの感動があった。あれは、何やったんや  ろ。」   それから、国試休みにニューヨークで見たミュージカル「レ・ミゼラブル」が、  なぜ、それ以降ずっと私の心に深く刻まれ続けたのだろう、ということをずっと考  えていました。一つ、その当時から思っている理由があります。それは、月並みで  はあるが、「ライブ」のちからです。俳優が実際に間近で演技していることは、映  画とは違う「何か」が観客に伝わる理由の一つとして間違いないでしょう。ただ、  ブロードウェイのミュージカルにでている俳優は、これまた特別にオーラのような  雰囲気があると思いました。そのオーラは、俳優の持つ「本気度」によって立ち上  っている、と私は考えています。ブロードウェイの舞台に立つチャンスは、想像の  及ばないほど激しい競争を戦い続け、何度オーディションで落とされても挫けない  強い気持ちを持ち続けることでしか掴み取れないものでしょう。夢を実現させるた  めの鬼気迫る思いがオーラと呼ばれる独特の雰囲気となって私たちに伝わるのだと  思います。それを、最前列で見ていた私は強くはっきりと感じました。   しかし、それだけではない「何か」が私の意識と結びついて特別な体験となった  ように思います。当時の私は、2回生のときから第二解剖学教室で実験をつづけて  5回生のときに論文がpublishされ、基礎研究のおもしろさと厳しさを垣間みていた  時期で、基礎に進もうか臨床医としてやっていこうか迷っていました。私の実家は  香川県高松市にあります。父は開業医でしたが、私が2回生のときに脳幹出血で倒  れ、ずっと寝たきりとなっておりました。卒業してすぐ、一人で看病している母を  助けたいと思い、高松に帰ろうかとも考えました。しかし、母は、阪大医学部を卒  業した兄にも、私にも、こっちで頑張って修行するように強く言い渡し、かえるこ  とを許しませんでした。しかも、私が基礎医学に進むことについても、内科で研修  することだけは言われましたが、やれるだけやってみろという意見でした。父は、  開業するまで約20年のあいだ徳島大学第1内科で研究・臨床・教育に携わってい  ました。父が師事していたのは三好和夫教授という先生で東大第3内科、いわゆる  沖中内科出身の有名な先生でした。その影響を強く受けた父は、私たち兄弟に「好  きなだけ大学で研究したらいい。」とずっと言っておりました。それを、極めて困  難なときにあっても、母は尊重してくれたのです。   そんな、いろいろな思いが交錯していたのが1995年3月でした。基礎・臨床の何れ  にしても両親に恥じないよう、やるからには世界の舞台に挑戦したいという気持ち  は強く持っており、その一環としてアメリカに2回も臨床実習に来ていました。国  試が終わってニューヨークに来たときは、英語力の問題もあり、2年間だけ研修し  てから基礎の大学院に進もうとほぼ決めていましたが、自分の中で納得できる覚悟  のような何かを持つための、武者修行のような気持ちで自分を追い込んでいました。  その、研ぎすまされた私の心に、俳優たちがいっさいの気のゆるみも無く全身全霊  で人生をかけて演じているレ・ミゼラブルが「ど真ん中のストレート」で投げ込ま  れたのでした。レ・ミゼラブルは、いわば私の「初心」と不可分な舞台背景として  心にあり続けたのでした。それが、先日の映画鑑賞後に感じた「心に引っかかる別  の何か」の正体だったのでした。   映画館など、この10年以上行くことも無く、完全座席指定で入れ替え制などと  いう世知辛さと、ふかふかでお尻が痛くならないソファーのような快適な座席。な  んと映画館は変わってしまったかと、つくづく感心しているようなオッサンがなぜ、  わざわざ待ちこがれたように映画レ・ミゼラブルだけは何があっても見に行きたか  ったのか。実は、自分でもよくわかりませんでした。しかし、今は分かるように思  います。「初心」を取り戻したいという無意識にも近い精神の渇望が、そう私に思  わせたに違いないと感じています。   私は、3年前の2010年9月に府立医大に着任しました。そのとき、私の最も尊敬す  る恩師の一人である名古屋大学理学部の近藤孝男教授にお願いし、色紙にお言葉を  書いていただきました。「初心を大切に」という極めて普通の言葉を書いてくださ  り、いまも教授室に飾って毎日見ています。近藤孝男先生は、紫綬褒章、朝日賞、  中日文化賞などを受賞され、理学研究科長をつとめられた非常に高名な研究者で、  私を名古屋大学理学部に呼んでくださり、独立した研究者となるための修行を積ま  せてくださった恩人でもあります。今も、私がしっかりやっているか研究室を見に  来てくださったりと、大変お世話になっています。色紙をいただいた当時は、やや  素っ気ない近藤孝男先生らしいメッセージに、感謝の気持ちを持って頑張っていこ  うと思っていただけでした。しかし、この「初心を大切に」というメッセージが、  最近は違って見えていました。実は、ここ最近、迷いというか悩みというか、自分  が何者であるかを自問することが多くなっておりました。そんな、少しささくれ立  ってきていた私の心に、近藤孝男先生の「初心を大切に」という言葉は次第に強く  響くようになっていたのでした。   こういった状況で、自分の「初心」はどのようなものであったか、ここ半年ほど  考えることが多くなっていたのです。このことは、レ・ミゼラブルが映画化される  ことを知ったとき、特にミュージカル愛好家でもない私が、なんとしても見に行き  たいと思ったことと無縁ではなかったのだと思っています。映画を見終わって、確  かに、国試休みにColumbia-Presbyterian Hospitalで、何かをつかみ取ろうともが  いていた私を追体験することができたように思いました。ささくれ立って来ていた  心が洗われていくような感じとともに、まだスタートラインに立ったばかりの私が  なすべきことは、もともと自分でも分かっているじゃないか、と吹っ切れたような  心境にもなりました。年が改まるこの時期に、もう一歩、踏み出そうという気持ち  にさせてくれた、自分でも新鮮な驚きも感じた「レ・ミゼラブル」の思い出です。   最後に、このような図書館ニュースという場をお借りして、極めて私事というか  私小説のような雑文を記したことをお許しいただければと思います。しかも、「む  さ苦しいオッサンが、なにが『みゅ〜じかる』やねん」とか、「長過ぎるぞ」とい  うご批判も空耳でなく、聞こえてきそうですが、こんな私にも『感じの良い好青年』  な時期もあったのだということを主張したい気もあり、思い切って書かせていただ  きました。また、これを機会に、ビクトル・ユーゴーの原作を今度は最後まで読ん  でみたいと思っている、という図書館的な締めで筆を置きたいと思います。     ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【2】【予告】「二十周年に捧ぐ、人生の20(ツレ)~我が座右の書~」展   / いよいよ1月22日から始まります! ………………………………………………………………………………………………   新館移転20周年にちなみ、「二十周年に捧ぐ、人生の20(ツレ)~我が座右の  書~」展を開催します。  本を「20(ツレ)」と見立て、本学教職員の転機に役だった本、何度読んでも感銘を  受ける本など、人生に「ツレ」添っている本を多数ご紹介!(ご寄稿いただいた  皆様、ありがとうございました!)   ゆっくりご覧いただけるよう、図書館員による手作り冊子も作製しました。  カウンターにて配布します。館内展示と共にお楽しみください! ★ 期間: 1月22日(火)~2月12日(火)  ★ HP:http://www.kpu-m.ac.jp/k/library/event2012/jinsei20/index.htm ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【3】 貴重書全文アーカイブ、2冊追加しました! ………………………………………………………………………………………………   デジタルアーカイブページ「貴重書全文アーカイブ」に、新たに2冊追加いた しました。   追加された項目は『痧脹玉衡書 序・目次, 巻之上・中・下, 後巻』と『醫學  質驗五種青嚢瑣探 上・下巻』です。   ぜひご覧ください。   今後もタイトル数を増やしていく予定です。   次回は「重廣補註黄帝内經素問 巻之1-24」等を予定しております。   ◆京都府立医科大学附属図書館デジタルアーカイブ   http://www.f.kpu-m.ac.jp/k/library/denshi/index.html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【4】 『今日の臨床サポート』トライアル延長しています。 ……………………………………………………………………………………………… 『今日の臨床サポート』は、エビデンスに基づく疾患・症状の概要、診断・治療 方針など、臨床現場で必要な情報を提供するオンライン臨床サポートツールです。 日本のガイドラインに則した診療情報を収載。当トライアルでは約230コンテンツが アクセス可能です。(全て日本語)  購入を前提としたものではありませんが、この機会に是非お試しください。 ◆ 提供期間:2012年12月17日~2013年1月31日まで(延長になりました) ◆ URL: http://demo2.clinicalsup.jp/  ◆ アクセス方法:ID/PWは、パスワード一覧表に表示しています。 ( http://www.f.kpu-m.ac.jp/k/library/OJ/OJpassword.pdf ) PDFを開くためのパスワードは、図書館(libej@koto.kpu-m.ac.jp)までお問い合わせ ください。コメント・ご感想なども上記アドレスまでお寄せください。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【5】 15分講習会を実施します(PubMed・医中誌Web・インパクトファクター) ……………………………………………………………………………………………… PubMedや医中誌Webについて、基本的なことから知りたいけれども、図書館の 講習会に1時間も参加する余裕はないという方のために、10月に15分間の短い レクチャーを企画しました。 前回の実施の時の経験を踏まえ、12月から、15分講習会を再開しています。 今回はPubMed・医中誌Webに加え、インパクトファクターに関するレクチャーを 選んでいただけるようになりました! データベースの特徴、ホームページへの行きかた、検索方法、文献PDFの 入手まで、基本的な部分を、15分でまとめて説明します。 毎週月曜日に実施します。申込不要ですので、お気軽に図書館カウンターに お声かけください!お待ちしております。 2月末まで継続して実施する予定ですが、途中で時間や内容の変更をする場合が ありますので、ご注意ください。 ◆ 日時:平成24年12月~平成25年2月の毎週月曜日        (1/14、2/11は休館日のため開催しません。)         11:00 / 16:00 の2回         ※上記と異なる日程や時間を希望される方はご相談ください。 ◆ 場所:図書館カウンター周辺 ◆ 内容:医中誌Web、PubMed、インパクトファクターから選択して下さい。 ◆ 事前申込:不要 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ …………………………………………………………………………………………………   [Book Review]・・・ 「冬の旅―24の象徴の森へ―」     梅津時比古「冬の旅―24の象徴の森へ―」(東京書籍 2007)は、シューベル  トの歌曲集を聴くうえで、示唆に富む書物だ。象徴をキーワードにした、あらたな  読み解きが可能。これを片手に、炬燵に入りながら「冬の旅」を聴いてみるのも乙  なものかもしれない。 (S.K.)     トップページ:  http://booklog.jp/users/kpumlib/ この本のページ: http://booklog.jp/item/1/4487802288 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ………………………………………………………………………………………………  図書館メールNews  第223号 2013.01.10 発行(隔週木曜日発行)  編集・発行 : 京都府立医科大学附属図書館          library@koto.kpu-m.ac.jp          http://www.f.kpu-m.ac.jp/k/library/          ………………………………………………………………………       (図書館メールNewsのバックナンバーはこちらから↓) http://www.f.kpu-m.ac.jp/k/library/mailnews/index.html ………………………………………………………………………………………………