図書館メールNews 第157号 ……………………>>>>>2010.6.24 発行 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  目次 ……………………………………………………………………………………………… 【1】--- コラム第4弾! 第1回「図書館といえば」                   / 人文・社会科学教室 棚次 正和先生 ……………………………………………………………………………………………… 【2】--- 研究活動をお手伝いする無料ツール(シュプリンガー提供)のご紹介 ……………………………………………………………………………………………… ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【1】 コラム第4弾! 第1回「図書館といえば」                   / 人文・社会科学教室 棚次 正和先生  ………………………………………………………………………………………………   京都大学文学部には、古色蒼然たる自慢の図書館があった。一歩足を踏み入  れるや、古い紙質や印字の匂いが立ち込めた書架の森が続いていた。同じフロ  アで前後左右に展開するばかりか、階上や階下にも繋がっており、その立体迷  路に迷子の気分を味わうこともしばしばあった。そこにはかの西田幾多郎先生  や田辺元先生の文庫もあった。本の頁をめくると、自筆の書き込みがあって、  妙な興奮を覚えたものだ。   ところで、読書の醍醐味とは何だろうか。未経験の事柄に気づくとともに、  その未経験の事柄に間接的に触れる、この両面が同時に読書では成立する。い  わば「未経験の経験」である。五感の知覚や記憶の制約を超えて情報を得る有  力な方法の一つが、読書なのである。IT革命で周りには情報が溢れているが、  大事なのは、玉石混交の情報群から良質の情報を選び取ることだろう。使い捨  ての情報に身を曝すのではなく、良質の情報を自分の栄養分にするには、一度  どこかで情報の受信・発信に関して訓練を積む必要があろう。    私の場合、その種の訓練は、高校一年から二年にかけて文学作品を集中的に  読み、読書ノートをつけることで行なわれたように思う。高校ではなぜか入学  前から、志賀直哉の短編『小僧の神様』を読んで感想文を書くという宿題が課  せられた。それが洗礼となって、古今東西の文学作品を貪るように読んだ。  ちょうどその当時、中央公論社の『日本の文学』シリーズ、河出書房の『世界  文学全集』シリーズが出て、評判を呼んでいた。森鴎外、夏目漱石、芥川龍之介、  武者小路実篤、あるいはトルストイ、ドストエフスキー、スタンダール、ヘッセ  など、手当たり次第に読んだ。長編小説の場合、まず登場人物の人間関係を掴む  ために、手書きの簡単な人間相関図が必要であった。また、気に入った表現を  読書ノートに書き留めておき、何かの折にそのまま拝借することもあった。文学  作品を通して、私は著者と登場人物の内心に触れることができた。それは主に想  念・感情の交錯や葛藤であった。しかも、その心の動きが当人の内面に止まらず、  相手にも影響を及ぼしていることは明らかであった。心配りや思い遣りは、相手  に心を配り、思いを遣ることだが、それは心配をかけ、思いの槍を投げることに  も変貌する。このように心や思いが、人間関係に多大な影響を与えているという  現実に気づくことは、人格形成には必須の要件であろう。上述したような読書法  のお陰で、高校一年の終わりにクラスで作った文集には短編が三つ掲載された。   文章を書くのが苦手な人がいるが、それは自分の考えや感想を書く作業におい  て、考えることと書くことが有機的に連動していないためではないか。そういう  人は、モデルにしたい作家や著者の文章を繰り返し読んで、彼らの文章のリズム  や息継ぎや間、要するに彼らの文体を真似るのがよい。まずはそっくり書き写し、  音読することだ。湯川博士も幼少時に漢文の素読を繰り返したというし、哲学者  にしては珍しく名文をものするベルクソンも古典(ギリシア語・ラテン語)の音  読を勧めた。「学ぶ」とは「まねぶ」ことである。真似ていると、次第にその文  体や思想に共振するようになる。最初は模倣にすぎなかったものが、やがて再解  釈となり再創造となる。それは文体が自分の肉体に同化して思考の血肉となると  いうことに他ならない。まさに「文は人なり」である。文学部の教授の中には、  訥弁だが論文では一分の隙もない精錬された文章を書く人がいて、そのギャップ  に驚くとともに、朴訥な教授の講義で滲み出ている品格に触れることは喜びであ  った。こうして、大学二年になる頃には、私の読書の関心は、文学書から哲学書・  宗教書へとすっかり移ってしまっていたのである。  *今年度も先生方による<教員コラム>を連載(隔号・全10回)予定ですので、   お楽しみに!(編集子) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【2】 研究活動をお手伝いする無料ツール(シュプリンガー提供)のご紹介 ……………………………………………………………………………………………… シュプリンガーでは、研究活動をお手伝いする無料ツールをご紹介していま  す。ご利用ください。   ◆ Exemplar (エグゼンプラー)   www.springerexemplar.com   用語が学術文献の中でどのように表現されているかを表示します。   英語の研究論文執筆を支援する無料の教育ツールです。   ◆ AuthorMapper (オーサーマッパー)   www.authormapper.com   SpringerLinkのメタデータを元に、著者がいる場所をマッピングします。   研究分野のトレンドが見える無料の分析ツールです。   図書館ホームページの新着情報からもアクセスできます。   http://www.f.kpu-m.ac.jp/k/library/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ………………………………………………………………………………………………  図書館メールNews  第157号   2010.6.24 発行(隔週木曜日発行)  編集・発行 : 京都府立医科大学附属図書館          library@koto.kpu-m.ac.jp          http://www.f.kpu-m.ac.jp/k/library/          ………………………………………………………………………       (図書館メールNewsのバックナンバーはこちらから↓) http://www.f.kpu-m.ac.jp/k/library/mailnews/index.html ………………………………………………………………………………………………