図書館メールNews 第299号………………>>>>>2015. 12. 25発行 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  目次 ……………………………………………………………………………………………… 【1】--- 教員コラム第9弾! 第8回 「死んだら何処へ行くのでしょうね」           疼痛・緩和医療学講座  細川 豊史 先生 ……………………………………………………………………………………………… 【2】--- 京都府立医科大学リポジトリ「橘井(きっせい)」を公開します ……………………………………………………………………………………………… 【3】--- 2016年に閲覧できなくなるタイトルについて ……………………………………………………………………………………………… 【4】---「BMJ」と「Oxford University Press」がシボレス認証でアクセスできます ……………………………………………………………………………………………… 【5】--- 年末年始の図書館利用についてのお知らせ ……………………………………………………………………………………………… [ Book Review ]・・・編集後記にかえて ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【1】--- 教員コラム第9弾! 第8回 「死んだら何処へ行くのでしょうね」           疼痛・緩和医療学講座  細川 豊史 先生 ………………………………………………………………………………………………  第36回死の臨床研究会年次大会のシンポジウム1.「死んだらどこに行くので しょうねー患者さんの問いにどう答えますかー」 で、司会・座長と基調講演を 務めさせて頂きました。シンポジストは、丹波あじさい寺観音寺住職の小籔実英 氏、宝塚市立病院緩和ケア病棟チャプレンの沼野尚美氏、あそか第2診療所常駐 僧侶の花岡尚樹氏でした。このときの、お話を少しさせて頂きます。  私は疼痛・緩和医療学講座でペインクリニックと緩和ケアに関わっています。 私のがん患者さんとの関わりは、1983年に、子宮がんの骨転移によるがん性疼痛 の患者さんの痛みの治療をしたことから始まります。以来、緩和医療とペインク リニックに30年以上関わってきました。その中で親しくなった患者さんから、 「死んだらどこへ行くのでしょうね?」という質問を受けることが少なからずあ りました。我々日本人の宗教観の多様性や死生観の曖昧性などから、答えを返す のがなかなか難しい質問です。仏陀は輪廻転生を前提に教えを説きましたが「死 んでからどうなるのか」については一切何も語ってはいません。また論語では、 「未だ生を知らず、焉んぞ死を知らん」と孔子にあっさりと切り捨てられていま す。本邦では必ずしも宗教を背景に、この質問に一つの回答を求める必要はない のかもしれません。しかし日本人は普段自覚していないのですが、私や日本好き の外国人の目からは日本人は極めて宗教的な民族と思えます。それは、当たり前 のように、お宮参りやクリスマス、初詣でや御葬式、七五三や十三参り、チャペ ルでの結婚式、に墓参り、初日の出に手を合わすなどなど、多種多様な宗教的儀 式を躊躇なく受け入れていると同時に、「そんなことをすると罰が当たる」に代 表される、自分より上の何かの存在を常に意識しているということからもうなず けることではないでしょうか。そして普段は死生観を持ち合わせず、考えてもい ない日本人も、“がん”という“死”を意識する病に罹った時には、多くが“あ の世”の存在を考えるのではないでしょうか。このシンポジウムを企画したのは そういう観点からでした。そこで、同様の質問を受けることの多い立場におられ る宗教関係の御三方をシンポジストとしてお招きし、この問いへの回答への道筋 について、聴衆の方々にも参加していただきながらゆっくりと話し合ってみたの がこのシンポジウムでした。その口火は、私の、「日本人の死生観と宗教観につ いて」の基調講演からでした。  私は医学生や大学院生、留学生にペインクリニックや緩和ケアの講義を担当す るとともに、学生3人での臨床実習(ポリクリ)を毎週約3時間、20年以上担当し ています。このポリクリでは、異文化、異宗教、異なる価値観を持つ海外の研究 者や医療者と学問的でない部分で関わっていく際の必要条件として、旧約聖書と 新約聖書を基本とした一神教の彼らの宗教観や考え方についての理解の方法につ いても緩和ケアの講義と共に話しています。まず最初に、日本国内で友人や先輩 から「貴方の宗教は何ですか?」と質問されたらどう答えますかと聞いています。 @仏教:21% A無宗教:74% Bキリスト教:3.5% C神道1.5%、がその答え です。4人に3人が無宗教と答えています。しかし、質問を、海外旅行時に外人か ら「What is your religion?」という質問されたという想定に変えたら、どう答 えるかと聞き直しますと、いち早くその意図を察知してか、@仏教:50.5% A 無宗教:44% Bキリスト教:3.5% C神道1.5% Dその他0.5%と仏教の回答が 増加します。さらにその旅行先が紛争地域とすると仏教と答える比率が約90%に 跳ね上がります。  さてこの質問後、お宮参りやクリスマス、初詣でや御葬式、七五三や十三参り、 チャペルでの結婚式、初日の出に手を合わすことなど多種多様な宗教的儀式を躊 躇なく受け入れる日本人の話をまずします。そして無宗教と言いながら、神社の 鳥居に落書きや放尿、お寺の墓石を引っくり返すなどの行為をするかと問うと、 誰に教えられたのでもないのに、「そんな悪いことは、絶対しない」といいます。 理由を問えば、「バチが当たるから」と答えます。多くが無宗教と言いながら、 人間以上の存在を肯定する考えを示してきます。また「死後の世界はあると思い ますか」という問いに対して「はい」と答えた学生が27.4%、「いいえ」が32.9 %、「分からないがあればいい、あるかも」との答えが39.7%でした。 2000年 の電通総研による調査では、それぞれ31.6%、30.5%、37.9%でしたので、ほぼ同じ 結果でした。概ね、死後の世界があるが約30%、分からないが約40%ということか ら、死んだらどこかへ行く可能性があるかも、あればいいと考えている人が約30% ですから、日本人の約70%があの世の存在があるかあるかもしれない、あればい いと思っているようです。  シンポジストの講演にも触れておきます。小籔実英氏の演題は「死んだら仏の 古里に帰ります」でした。氏は自力本願の真言宗観音寺、密教の住職です。お釈 迦様は「相手を見て法を説く」つまり「相手の質問の背景・状況を考えて対処す る」を基本としておられたと話されました。その教えは「生死を超える」つまり 「宇宙を(仏)とみなし、それと自分をつなぐこと、すなわち永遠の命とは、人 の体そのものが宇宙(仏)そのものであり、自分と宇宙(仏)とが一体だと観想 すれば即身成仏できる。それゆえ、心配せんでもよい、これが安心(あんじん) だと話されました。また、“がん”で余命わずかと告知された人からの質問に対 しては、「人の寿命がいつまでとわかる人はどこにもいない。それよりも一日一 日を充実させて生きることが大切」と説かれ、人の持つ“死への不安”は、まず 一人で逝かなければならないこと、そして、どこに行くのかどんな所へ行くのか 分からないことに尽きると話されました。しかし、あの世には、先に逝かれた父 母や祖父母、知人がおり、決して一人で逝くのではなく、彼らが迎えに来て下さ るし、弘法大師も同道してくださる、そして、死は「ありがたし、父母おわしま す国へ旅立つ」である(再会信仰)と、さらにあの世は極楽で、綺麗な花咲く場 所、浄土と教えてあげてもよいと語られました。そして死んだらすべてが無くな るのではなく、「身は華と与に落ちぬれども、心は香と将に飛ぶ」という空海の 教えを引用し、肉体は滅びてもその人の言葉や思い出は残ると結ばれました。  花岡尚樹氏はあそか第2診療所・ビハーラクリニックの常駐住職、僧侶であり 西本願寺布教師です。奈良県吉野の定光寺の住職が本業で、宗派は浄土真宗、他 力本願が信条です。演題名は「死の意味を支え、生きる意味を支える」でした。 源信の著“往生要集”にある「我今帰する所なし」がこの世の地獄である。つま り命を終えて帰っていく所がなければ、今生きている所も地獄であるとし、命を 終えて帰るところの存在が重要と説かれました。そして「人は生まれた時から死 を約束されているという事実を認識することが大切であり、生きる意味と死ぬ意 味は同義であるが、生きているこの世は穢土であり、死んで逝く世界は浄土であ るとし、死んで逝く浄土があるからこそ現世が生きるに足るものである。よって 死は嘆くことではない。」と語られました。そして「私が無駄に過ごした今日は、 昨日亡くなった人が痛切に生きたいと願った今日である」と結ばれ、やはり毎日 を充実して生きることの大切さに触れられました。  3人目のシンポジストは宝塚市立病院 緩和ケア病棟のチャプレン・カウンセ ラーである沼野尚美氏でした。演題名は、「宗教的ケアの必要性」であり、「死 んだらどこに行くのでしょうね」という患者さんの問いそのものがスピリチュア ルペインであるということを前提にお話しされました。患者からのこの問いかけ に決して「死んでみないと分からない」と答えるのではなく、その問いは「死ん だらどこへ行くのか分からない」という患者さんの不安から発せられたものであ り、心和むイメージを作ってあげて一緒に話し合うことでその寂しさを軽減する ことが出来るのだと話されました。また、なぜその質問をするのかとその背景を こちらから尋ねることで、実は患者さんは話し合いをすることで死の恐怖を共有 してほしいと思っているということが多いことを理解してほしいと述べられまし た。また、その質問は必ずしもその答えを導きやすい宗教家などに発せられるだ けではなく、そうでない皆様方、つまり貴方だからこそ、その質問をされたのだ と受け止めて、逃げずに一緒に悩む、時にはそれに精通したチームメンバーを紹 介することで共に解決策を見つけていくということが大切と締めくくられました。  会場からは、臨死体験をされた方から、「西に明るく光輝く方向に歩いていく 自分がいた」という医学的に言えば症例報告とエビデンスを兼ね備えたような体 験談、そして外国人の研究者からは、あの世についての宗教的・学問的背景をま だ持たない小さな子供たちの多くの臨死体験に共通する“あの世”の表現が「楽 しいよ、暖かいよ、痛くないよ、明るい光輝く静かな綺麗な場所だよ」に集約さ れる共通した情景だったと話されました。また子供たちは死をどのように受け取 っているのかという質問に対しては、沼野氏からは、子供は死についても極めて 敏感であるが、その個人差は大きく、その対応がとても難しいという解答と同時 に親御さんとの接し方については、悲しみを共有することが大切と話されました。  「死んだらどこに行くのでしょうねー患者さんの問いにどう答えますかー」と いう重い命題に対して、すぐに結論の出ることにはならないと思っていたのです が、シンポジストの御講演、コメント、会場の方々の経験や研究成果、そして暖 かいお言葉を頂き、この質問を発する患者さんの気持ちに寄り添っていくことの 大切さと、「どうもあの世はあるかもしれないな」と蓋然的に考えることにより、 “安心、安寧”を得られるというのが、このシンポジウムの結論になりました。  もし、緩和ケアに従事する死に逝く患者さんに多く接する医療者が「死んだら どこに行くのでしょうね?」と患者さんに問われたときは、このシンポジウムを 思い出し、少なくとも、「私にもはっきりとは分からないのだけれど、こんなお 話がありましたよ、それは、『一人で死ぬのじゃないよ、先に逝った人に会える みたいだよ、誰かがお迎えに来てくれる。あの世は楽しく、暖かいところで、痛 みも苦しみもなく、ただ明かりが見える(西)方向に進んでいくだけでいいみた い。』」と「心和むイメージ」で、患者さんとお話しして頂ければと思います。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【2】--- 京都府立医科大学リポジトリ「橘井(きっせい)」を公開します ……………………………………………………………………………………………… 2016年1月に、京都府立医科大学リポジトリ「橘井(きっせい)」を公開します。 「橘井(きっせい)」は、京都府立医科大学の構成員が創造した研究・教育等 の成果を収集・蓄積・保存し、学内外に広く無償で発信・提供するものです。 平成25年度と26年度の博士論文の要約及び審査要旨を収載してスタートします。 「橘井」とは中国の故事に由来する言葉で、医師を意味します。本学の校章に は橘の葉が使われており、橘と本学の深いつながりから名付けました。  URL: https://kpu-m.repo.nii.ac.jp/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【3】--- 2016年に閲覧できなくなるタイトルについて ……………………………………………………………………………………………… 2016雑誌購読契約の結果、2016年に閲覧できなくなるタイトルがありますので、 お知らせします。  ◆閲覧できないタイトル 【理由:出版社移管のため】  ・FEBS Letters (1月〜)  ・Pathology  (1月〜)  ・Journal of Cerebral Blood Flow and Metabolism  (4月〜)  ・Journal of Investigative Dermatology  (4月〜)  ・Kidney International  (4月〜)  ※冊子体・電子ジャーナルとも閲覧不可  ◆閲覧できないタイトル 【理由:予算制限のため】  ・Birth  (1月〜)  ・Public Health Nursing  (1月〜)  ・Nature Methods  (4月〜)  ・Nature Reviews Genetics  (4月〜)  ※冊子体・電子ジャーナルとも閲覧不可  ◇1月から冊子体での購読を中止するタイトル(オンラインではこれまで通り閲覧可能)  ・American Journal of Epidemiology  ・Epidemiologic Reviews  ・Brain  ・Carcinogenesis  ・Cerebral Cortex  ・Genes and Development  ・Human Molecular Genetics  ・Journal of Immunology  ・Journal of Neurosurgery  ・Journal of Periodontology ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【4】---「BMJ」と「Oxford University Press」がシボレス認証でアクセスできます ………………………………………………………………………………………………  学外から接続できる電子ジャーナルデータベースを2種追加しました。  詳細は「シボレス認証でアクセスする」 (http://www.kpu-m.ac.jp/k/library/densisiryou/gakugairiyo/Shibboleth.html)  をご覧ください。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【5】--- 年末年始の図書館利用についてのお知らせ ………………………………………………………………………………………………  ◆図書館休館日  平成27年12月27日(日)〜平成28年1月4日(月) * 新年は、1月5日(火)9時から開館します。  ◆OPAC休止のお知らせ  図書館システムのバージョンアップ作業に伴い、OPACを休止します。  休止期間 平成27年12月28日(月) 09:00 - 17:00  この間、OPACによる蔵書検索・複写申込等が利用できません。  資料検索はMecke(統合検索)をご利用ください。   ……………………………………………………………………………………………… [Book Review] 「生命(いのち)の暗号〜あなたの遺伝子が目覚めるとき〜」                  (サンマーク出版 1997 村上和雄 著)   遺伝子工学の研究者である村上先生が一般向けに書いた、遺伝子の不思議を 知ることのできる本。私たちの遺伝子にはONとOFFがあって、現在働いているの はせいぜい10%。あとはまったく眠った状態におかれているとこの本には書か れている。自分にはできないと思っていることでも、何かのきっかけで遺伝子 がONになれば、能力が開花することもあるかもしれない。ワクワクしながら前 向きに生きるとき、また見返りを求めずギブ・アンド・ギブの心境にあるとき、 遺伝子はONになるという。 遺伝子ONの人生の一例として、自身の若かりし頃の米国での研究生活について も触れられており、研究者の厳しさ、楽しさについても知ることができる一冊。                      (467.2||M 2階閲覧室)(Y.Y)    トップページ:http://booklog.jp/users/kpumlib    この本のページ:http://booklog.jp/item/1/4763191918             ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ………………………………………………………………………………………………  図書館メールNews  第299号 2015. 12. 25発行(隔週金曜日発行)      編集・発行 : 京都府立医科大学附属図書館              library@koto.kpu-m.ac.jp              http://www.kpu-m.ac.jp/k/library/     ………………………………………………………………………      (図書館メールNewsのバックナンバーはこちらから↓) http://www.kpu-m.ac.jp/k/library/sougouannai/mailnews.html 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