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概要

News&Views vol.2 Mar, 2015

がんの免疫療法に使用する免疫細胞を培養する様子(タカラバイオ提供)「がんシンポジウム」を主催がん免疫療法は、自分自身に備わっている免疫力を強化してがんを攻撃しようとする治療法で、がんワクチン療法や免疫細胞療法の他、近年注目を集める免疫チェックポイント阻害剤などの抗体療法があります。本学では、ワクチン療法や新規NK細胞療法、レトロネクチンR誘導Tリンパ球療法などの細胞療法の臨床開発を進めるとともに、これらの免疫療法と抗体療法を併用した複合的がん免疫療法の研究開発を行っています。ハイパーサーミアは、直接的な抗がん作用の他に、担がん患者さんにみられる免疫抑制状態を解除する作用や、がん細胞上のがん抗原発現を誘導する作用などがあることを確認しています。免疫抑制状態をハイパーサーミアにより修復された環境に導いて、がん免疫療法を併せて行うことで抗がん作用の増強が期待され、こうした基礎研究の結果をもとに温熱・免疫療法の開発も進めています。その他の代表的ながん研究がんの予防法や早期発見手法に関する研究については、地域保健医療疫学の渡邊能行教授らが、京都府民を対象に生活習慣病と疾病遺伝子などの相互作用を検討し、個人の体質に応じたがんなどの予防方法を確立する研究が進められています。さらに消化器外科の大辻英吾教授らが、5-アミノレブリン酸による消化器がんの腹膜播種に対する光線力学的診断法を腹腔鏡診断に臨床応用し、手術中のリアルタイム診断、さらに胃がん・大腸がん・食道がんのリンパ節転移診断や手術中の合理的治療法の選択の可能性も示しました。新たな治療法の開発については泌尿器外科の三木恒治教授らが、分子標的薬抵抗性腎がんに対するIMA901ワクチン療法の候補となるペプチドのスクリーニング、進行性腎がんに対する分子標的治療薬治療による有害事象の出現や治療効果を予測できるバイオマーカーとしての特定の遺伝子多型の同定などの成果によって、患者さんのQOLを配慮し、副作用の少ない治療法のストラテジーを確立しました。新世代のがん分子標的療法開発戦略シンポジウム平成26年12月6日には「新世代のがん分子標的療法開発戦略シンポジウム」を国立京都国際会館で本学が主催し、わが国アカデミアで過去10年間に開発された抗がん分子標的薬の4大発明と呼ばれるクリゾチニブ、モガムリズマブ、トラメチニブ、ニボルマブの開発者である4人の研究者からアンメッドメディカルニーズに応えるがん治療薬開発について詳しくお話しいただき、本学分子標的がん予防医学の酒井敏行教授からは、ドラッグ・ラグの解消に向けた新しい治療薬の開発に関して、建設的な提言がありましたので、ここにご紹介します。分子標的薬の研究開発と今後の創薬研究への提言分子標的癌予防医学?酒井敏行教授多くの悪性腫瘍において、発がんにもっとも重要な役割を担うがん抑制遺伝子RBがタンパク質レベルで失活することに着目し、RBを中心とした新規がん予防法、診断法、治療法に関する臨床応用研究を企業と行ってきました。それらの経験の中で「RB再活性化スクリーニング」と名付けた分子標的薬の探索方法を創案し、企業と共同で新規MEK阻害剤トラメチニブと新規RAF/MEK阻害剤CH5126766を発見しました。特にトラメチニブは、進行性BRAF変異メラノーマ患者に対して一昨年、米国でファースト・イン・クラスのMEK阻害剤として「メキニスト」という商品名で認可された後、EUほかでも承認されました。その結果、旧来の抗がん剤による奏効率が約5%であったのに対し、トラメチニブとBRAF阻害剤を併用することにより奏効率76%(完全奏効率9%)にまで達し、トラメチニブは一昨年のドラッグ・ディスカバリー・オブ・ザ・イヤーに選ばれました。この経験を踏まえて、わが国におけるがん分子標的薬の開発戦略について私見を述べさせていただくと、一気通貫的創薬支援を行う日本医療研究開発機構(A―MED)へと創薬の中心を移行させることにより、医薬品の輸入超過額年間3兆円を、一気に解決する方向性を目指すことは建設的であると考えます。しかし一方で、日本の製薬会社が欧米のメガファーマと闘うには、日本の会社が「安心してアカデミアと組める創薬方法の独自性」が必須だと考えます。創薬には、遺伝子研究が専門のジーン・ハンターだけでなく、創薬研究を行うドラッグ・ハンターが必要ですが、わが国では今日に至るまで、創薬研究を専門とするドラッグ・ハンターを育てる研究費を配分する仕組みに極めて乏しかったことが、医薬品の輸入超過に結び付いた要因の一つと考えています。優秀なジーン・ハンターとドラッグ・ハンターを育成することが、日本の創薬開発の両輪であると考えています。創薬標的に関しても、発想の転換が必要で、創薬の標的は決して「日本発」にこだわる必要もなく、「新規」なものでなくてもいいのです。創薬標的に関しては、汎用性のある創薬を目指す場合は、発がん共通経路の標的が最も理想的ではないかと考えます。また独自のスクリーニング方法を持つ研究者を育成・支援することも、欧米メガファーマやメガベンチャーと競合せずに、より良い分子標的薬を開発するために必要です。今後、これらの点に留意しつつ国がアカデミアに対する創薬支援を行えば、企業もアカデミアと組みやすくなり、その結果、我が国はがん分子標的薬の創薬において、世界をリードすることも十分可能だと考えます。5