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概要

News&Views vol.2 Mar, 2015

R esearchViews京都府立医科大学は高度な専門的知識から生まれるユニークな視点で、既存の価値観に左右されない豊かな創造力を持つ人材がその能力を十二分に発揮できる環境を提供しています。今回は、このような本学の校風・伝統を受け継ぎ、多角的な研究を行っている診療科と研究者をご紹介します。Top Research Top Research Top Research転写制御による細胞分化・腫瘍発症メカニズムの包括的理解をめざして新しい代用心臓弁・代用血管の開発酸化ストレスが関わる多様な疾患の分子標的治療をめざして分子生化学教授奥田司心臓血管・小児心臓血管外科学教授夜久均病態分子薬理学矢部千尋教授私たちの体は数十兆個にのぼる細胞によって構成されているが、もともと単一の受精卵に由来するこれらの細胞は、それぞれ異なった形態や機能を獲得して精緻な生命現象を担う。同じ遺伝情報を持ちながら、種々の機能細胞へと分化するのは、必要な遺伝情報が分別して読み取られるためだと考えられている。ここではそれぞれの遺伝子の転写レベルを調節する転写因子の働きが重要であり、その本態はクロマチン上に「エピゲノム」と呼ばれる目印がつけられることとされている。また転写制御の異常は、発がんに深く関わる。私たちは造血細胞の分化や腫瘍化をモデルとして、この分子機構を解明すべく研究を展開している。たとえばヒト白血病の原因遺伝子であるRunx1/AML1転写因子が造血制御の中心的役割を担っていることを解明し、その働きの詳細について解析を進めてきた。最近では、この分子の受ける翻訳後修飾が、末梢性Tリンパ球の維持に重要となることを明らかにした。また、Runx1の機能を抑制する協調分子の特定や、転写標的となる遺伝子群の同定も行なっている。こうした研究を通じて、腫瘍発生機構の深い理解や新規分子標的薬開発など、臨床の現場へ貢献したいと考える。1?既存の僧帽弁人工弁の抗凝固性、流入血流動態の欠点を補うために、自己心膜で手術中にステントのない僧帽弁を作成して植え込むステントレス僧帽弁を多施設共同研究で開発・臨床応用を開始した(担当:夜久均教授;早稲田大学、榊原記念病院と共同)。2?生体適合性が良いポリテトラフルオロエチレン膜を用いて、独自に開発したドーム状の洞(サイナス)を持つ肺動脈弁を開発した。狭窄病変、逆流病変などが圧倒的に少なく良好な結果が得られている。現在、本邦の5 4施設に供給しており、全国の施設で臨床使用が行われている(担当:山岸正明病院教授)。3?小口径代用血管は未だ満足出来るものがなく、自家動静脈が唯一代用血管として実用されている。生体内組織形成技術を用いて自家結合組織からなる代用血管・代用弁を簡便・安全・ローコストに作成する技術を開発し、動物実験を行なっている。(担当:神田圭一講師;国立循環器病研究センターと共同)。4?更に上述の3代用血管については、小児心臓外科領域における肺動脈形成術への臨床応用の体制が整った(担当:山岸正明病院教授)。末梢血管外科領域でも体制作りを進めている。当教室では生体内で酸化ストレス増大をもたらすNADPHオキシダーゼの遺伝子組換えマウスを用いて諸臓器の病態の分子機構を解析している。NADPHオキシダーゼNOX1は非食細胞型の活性酸素種産生酵素の新規分子種として見出され、発現レベルは低いものの、刺激を受けると誘導される特徴がある。我々はこれまでにNOX1が血圧上昇や肝臓の線維化、糖尿病腎の細胞老化に寄与する主要分子種であるのみならず、神経系では炎症性疼痛やモルヒネの鎮痛耐性を促進することを見出した。他方、若年のNox1遺伝子欠損マウスでは肺高血圧症様の所見が認められる。この分子機構を解析したところ、NOX1が肺血管平滑筋細胞のアポトーシスを制御することで肺血管の恒常性維持に重要な役割を果たしていることが示された。酸化ストレス増大につながる活性酸素種の産生源としてNADPHオキシダーゼは薬物開発の標的であり、現在国内外で複数の化合物の開発が進められている。しかしヒトでのNOX各分子種の生理機能の全貌は未だ明らかではない。今後臨床研究を含めた幅広いアプローチにより、酸化ストレスが関わる多様な疾患の治療戦略への応用を目指したい。12